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IX章:関節円板の病態と下顎頭の運動経路(受圧作用の観点から)

VII章でMcCartyやLundeenのアキシオグラフ所見(下顎頭の運動経路)による関節円板の病態診断法を紹介しましたが、私は顎関節の解剖標本の中から典型的なものを選び出しその標本を用いて実際に運動経路を描記して見ました(図\ー1)。そしてAutopsy model(解剖標本例)とClinical model(臨床例)との比較を行いました。この比較によりアキシオグラフ所見による関節円板の病態診断が臨床的に有効な手段であることが明らかになりました。私は私の日常臨床で応用し診断や治療に良い結果を得ています。この種の研究もあまり見あたらないものなので参考にして頂ければ幸いです。

構造的正常例では、下向きに凸な円弧の終点(弯曲点)に円板と下顎頭の安定した位置がありました。つまりこの位置が顆頭安定位に相当する位置であると考えられました。(図\ー2)

関節円板外側部部分前方転位例では、最大開口に相当する位置で転位していた外側部の円板が復位し、閉口時に相当する位置で外側部の円板が前方に転位し、運動経路は全体として大きな8の字を描きました。(図\ー3)

これに対して、関節円板完全前方転位例では、開口初期に相当する位置で完全に前方へ転位していた円板が一体となって復位し、それから正常経路をとり、閉口後期に相当する下向きに凸な円弧の終点(弯曲点)で円板と下顎頭は顆頭安定位をとり、それから後方へは下顎頭が円板の後方肥厚部の下関節面を後方滑走し、ついに円板は前方へ転位し、開口初期と閉口後期とで小さな8の字を描きました(図\ー4)。また、この両者に相当する臨床例を比較すると、関節円板部分前方転位例では開閉口時にOpen late click、Close late clickを示す全体的に大きな8の字を描きますが、前方運動と側方運動では正常経路を示しているのに対して、関節円板完全前方転位例ではすべての運動で、Open early click、Close late clickを示す開口初期と閉口後期とで小さな8の字を描いています。

関節円板中央部部分前方転位例(図\ー5)と、関節円板無転位付着部弛緩型例を比較すると全体的な運動経路は似ていますが前者では下顎頭の位置が最後退位(図\ー6)に位置しているのに対して、後者では顆頭安定位にあることが違っていました。

関節円板下関節面にゆ着傾向がみられる、関節円板外側部部分前方転位非復位型(図\ー7)に相当する標本では、前後運動や側方運動などの滑走運動は良好でしたが、開口運動によって生じる下顎頭の前方回転運動が阻害されていました。

関節円板の穿孔例(図\ー8)では、下顎頭と関節結節に骨の平坦化が見られ、運動経路も平坦な直線状を示していましたが、全体的な可動性は良好に保たれていました。

次章では構造的正常例、関節円板外側部部分前方例、関節円板完全前方転位例についてさらに詳細な考察を行いたいと思います。

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