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X章:下顎頭の運動経路から見た治療顎位のあり方について
(構造的正常例、関節円板外側部部分前方転位例、
関節円板完全前方転位例の比較)

1.構造的正常例

実際の解剖標本では、外側靭帯の内側で、下顎頭円板靭帯(円板の付着部)が外側極に強固に付着し、内側部でも同様に関節円板は内側極に強固に付着し、簡単には円板は転位しにくい構造になっています。そして下顎頭に対して関節円板は一定範囲内で可動性を有していますが、その適正範囲を越えないように運動に制限が加えられています。

頭蓋骨模型を用いて相当する関節円板の正常モデルを作成し、下顎頭の運動経路を実験的に描記し、関節円板と下顎頭の相対運動を比較対応すればよりわかりやすいと考えられます。(立体図と矢状断面図を対応させてあります。) 

これらの図から治療顎位とすべき本来の下顎頭の位置(咬頭嵌合位での)は、下顎頭の運動経路上の下向きの円弧の終点にあたる運動経路上の変曲点Aの位置であることがわかります。

2.関節円板外側部部分前方転位例

実際の解剖標本では、外側極部の下顎頭円板靭帯(円板の付着部)が弛緩し円板の外側部が前方へ転位していますが、内側極部の下顎頭円板靭帯は正常で、円板の内側部は下顎頭をおおっています。関節円板の外側部の付着がゆるいために

開閉口に相当する運動で円板の外側部は付着部の正常な内側極部を回転中心として開口時に相当する位置では前方に、閉口時に相当する位置では後方に回転しています。

これに相当する状態を頭蓋骨模型を用いて作成し、モデル実験を行いました。描記実験では円板を中央部で切断し円板の外側部を前方に転位させました。印をつけた所が外側極部の円板後方肥厚部です。関節円板の内側部は正常な関係であるために下顎頭は本来の位置である関節窩の中央前方部に位置しています。開口初期では、内側極部の円板が正常な機能を有しているため、円板の外側部が前方に転位しているまま下顎頭が前方滑走し、最大開口時では関節結節を乗り越え前方へ転位していた円板の外側部が復位しています。閉口初期はそのままの状態で下顎頭と関節円板は後方へ滑走しますが閉口後期に関節円板の外側部は前方へ転位しもとの状態にもどります。下顎頭の運動経路では開口後期矢印1の所でクリックを生じ、外側極部の円板が前方に転位し、運動経路は全体として大きな8の字を描いています。

この関節円板外側部部分前方転位の場合、治療顎位を閉口時のクリックの手前の位置(矢印2の前)、すなわち、通常のreciprocal clickの概念での円板の復位した位置とした場合、本来の位置よりかなり前方に位置する危険があります。ですから、治療顎位としては、矢印3の位置(正常機能を有する円板の内側部の機能的な弯曲点)が望ましいと考えられます。この病態の運動経路は、円板の内側部による正常な円運動を基線として、それに、外側部の円板の乗り降りした運動が加わった全体に大きな8の字を描く合成曲線似なっていることが理解されたと思います。

3.関節円板完全前方転位例

外側極部と内側極部と下顎頭円板靭帯が両側とも弛緩し、円板が完全に後方に偏位しています。

モデル実験図では、印をつけた所は円板の付着部ですが、両側の付着部は前方へ遊離し、円板全体が前方へ転位し、下顎頭は関節窩部の後上方へ偏位しています。開口初期の状態では下顎頭が円板の後方肥厚部を乗り越えて復位しています。開口後期の状態ではすでに円板が復位しているため下顎頭と円板はスムーズに関節結節を乗り越えています。閉口時においても同様にスムーズに回転滑走運動が行われます。下顎頭と関節円板は本来の位置(顆頭安定位)を一担とりますが下顎頭はその位置より後方へ滑走し円板がもとのように前方転位し、下顎頭は後上方へ偏位します。下顎頭の運動経路では開口初期、矢印1のところでクリックを生じ、円板全体が復位し閉口後期、矢印2のところによりクリックを生じ円板全体が前方転位し運動経路は開口初期と閉口終末期とで小さな8の字を描いています。

この病態の場合、治療顎位とでは矢印2で示す下向きの円弧の終点に相当する位置が望ましいと考えられます。

ですから部分前方転位の場合とちがって、開口してclickをさせた状態で、咬合採得をする必要があります。

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