ここでは、顎関節症を理解するために、まず顎の生理的な状態について説明します。
顎の一連の運動は、機能的に見ると大きく2つに分けることが出来ます。1つは、顎を開けたり閉めたり自由に動かす運動で、動的運動状態と呼ぶことにします。もう1つは、歯を合わせてグッと咬みしめる動きで、静的運動状態とします。
- 顎の3つの構成要素と、そのしくみ
顎は、機能的にみると、歯列(歯の咬み合わせ)・筋活動(咀嚼筋の働き)・顎関節(耳の前にあるアゴの関節)の3要素から構成されています。この3つの要素の機能を、動的運動状態と静的運動状態のそれぞれにおいて説明します。
- 顎の生理的状態(健康状態)とはどんなものか?
上の3要素(歯列・筋活動・顎関節)が調和してはたらいている状態が、顎の生理的状態と考えます。 その調和とは、解剖学的、生理学的にであると同時に、顎も重さを持った実体なので、物理の法則(ニュートンの運動法則のような古典的物理)に対しても調和しています。そのメカニズムを説明します
声を出したり、笑ったりするのは動的運動状態だけで実行できます。
しかし、ヒトが食べ物を口に入れて噛みきり、噛みつぶす、そしてまた食べ物を口にいれる(捕食・咀嚼運動)…という行動は、実際やってみるとわかりますが、動的運動状態と 静的運動状態の2つの動作の繰り返しであることがわかります。
大半の方が、この2つの動作をほとんど意識することなく、とぎれることなくスムーズに行うことが出来ます。
実は、この「無意識に」「スムーズに」が重要なことなのです。ヒトの体はこの口を開ける→閉じる→咬みしめる→開ける…の一連の動作を自然に、そして体の各部を破壊することなく(なにしろ咬みしめるときは成人で約60kgなどという負荷が体にかかるのです)実行するような形態と機能を持っているのです。
それでは、次からこの「動的運動状態」と 「静的運動状態」について、そしていかにうまい具合に体が出来ているかを説明していきます。
最後に、我々は、顎関節症の患者さんの治療の基本とは、顎の生理的な(健全な)はたらきと仕組みを理解し、それを患者さんに再現することだと考えています。